「美味しい食事を食べるっていうのは、人生の楽しみの一つ。だから私は、自分も周りにいる人たちも美味しいものを食べて幸せになれるような関係を作っていきたいんです」
新小岩にある東京聖栄大学で教授を務める風見公子(きみこ)さん。学生への指導のほか、管理栄養士として、大学生アスリートの食事指導や幼稚園の食育、さらにはAIを活用した献立作成まで、その活動は驚くほど精力的です。
葛飾区が進める「葛飾元気食堂」のメニュー開発にも深く関わる彼女。その原動力は、あふれるほどの「食への愛」にありました。人情味あふれる葛飾の街で、食を通じて人を幸せにする、風見先生の情熱に迫ります。
「お母さんの味」が教えてくれた、食卓の原風景
風見さんの食に対する探究心のルーツは、幼少期の暮らしにありました。父親が自衛官だったため、全国各地を転々とする転勤族として育った彼女。
「九州へ行けば『がめ煮』、岡山へ行けば彩り豊かな『ちらし寿司』。母がその土地土地の料理を作ってくれて、こんな食材があるんだ、こういう調理法もあるんだって。高校まで、母の食事が世界で一番美味しいと思って食べていました。そういう家庭に育ったことが、私の原点だと思います」
「自分が料理をするのも、学生が作っている姿を見るのも大好き」と語る風見さん。小学5年生の時に「おにぎりを握るのが上手だね」と褒められた小さな成功体験が、彼女を栄養学の道へと導きました。大学では、日本の食卓を体系化させた第一人者・足立己幸先生に師事。そこで学んだ「主食・主菜・副菜」を揃えることの重要性が、現在の彼女の骨格となっています。

アスリートの背中を支える「乳和食(にゅうわしょく)」の可能性
現在、風見さんが力を入れている研究の一つが、アスリート向けの食事指導です。
特に注目しているのが、和食に牛乳を取り入れる「乳和食」。
「牛乳を使うとコクが出て、塩分を控えても美味しく食べられるんです。でも、アスリートにはそれ以上のメリットがある。牛乳に含まれるホエイ(乳清)を上手に活用して、たんぱく質を効率よく摂取できるメニューを開発しています」
実際に東海大学の駅伝チームや日本大学の女子バレーボール部など、勝負の世界で戦う現場に足を運び、選手たちの食を支えてきました。
「運動の世界は、よそ者が入りにくい場所。でも、ご縁があって信頼をいただき、お手伝いできるのは嬉しい。選手が結果を出してくれることが、私にとっても大きな刺激になります」

AIから「熱波師」まで。葛飾で育む「たくましいプロ」
風見さんのゼミは、学生たちの間では「大変だけど、最高に面白い」と評判です。
「私の仕事は、学生にどれだけ多くの『引き出し』を作ってあげられるか。幼稚園の給食から、AIを使った最新の献立作成、さらには食品展示会まで、とにかく現場を見せまくります(笑)」
そこには、単なる知識の伝達や資格取得のためではない、風見流の哲学があります。
「学生には、アルバイト代を貯めて、一流の店へランチに行きなさいって教えるんです。本物の味を知らなければ、美味しいものは作れないから。
私のゼミには良い意味で変わった子が多くて、卒業して何年もかかるスポーツ栄養士になりたい学生がたくさんいたり、大学時代に「熱波師」をしていて、まずは営業、そして管理栄養士を活かして起業したいなんて野望を語る子もいる。そういう夢を応援したいんです」
葛飾の街に飛び出して地元の精肉店とコラボしたり、イトーヨーカドーで学生が考案したメニューのお弁当を販売したり。実践的な場を通じて、学生たちに社会に出る道筋を示し続けています。

「楽しく食べる」ことが、心身を整える一番の薬
最新の論文を次々と発表する学究肌でありながら、風見さんから私たちへのアドバイスは、驚くほどシンプルで温かいものです。
「一番は、楽しく食べてください、ということ。場が楽しいとそれだけ食事も進み、心と体の栄養になる。だから、携帯を見ながら食べるんじゃなくて、音楽を聴いたり、誰かと会話したりして、食べることに集中する環境を作ってほしいんです」
食事の構成についても、「難しく考えなくていい」と笑います。
「カレーライス一品でも、お肉や卵を足して、野菜の小鉢を一つ付ける。それだけでバランスは整います。食べたもので自分の体はできているから」
葛飾の街を歩けば、元気食堂の活動を通じて「風見先生!」と声がかかる。その人懐っこい笑顔は、この街の風景にすっかり溶け込んでいます。
「私は、自分が何かをしたというより、『この子を育てたのよ』と言えるような教員になりたい。学生たちの礎の一部になること、それが私の幸せです」
葛飾の太陽のような風見先生。彼女が蒔いた「美味しくて楽しい」種は、教え子たちを通じて、これからも多くの食卓に広がっていくはずです。

